~3章(前編)~

6月梅雨がはじまり、最近著しく雨の日が増えた。しかし、7月に暑さのマシなうちに体育祭を済ませようということで行われるため、必然と6月に体育祭の練習やら準備が始まる。おかげで今日の授業の半分を種目決めで使うらしい。
その日の朝、あいにくの天気だった。
「今日も雨か」
そう呟き家を出る。
「やっほー、たけるくん」
いつもよく聞いている声。高木さんだ。
「おはよ、今日も元気そうだね」
「授業が半分になるんだよ?元気にならない学生はいないよ!」
確かにそうだ。
たけるくんの家、私の家から近いね」
「えっそうなの?」
「うん、だって同じマンションの3階だよ。たけるくんは?」
驚いた。彼女と知り合ってからこれだけ経っているのに、僕の2つ下の階に住んでるなんて知らなかった。
「僕は5階だよ」
「知ってたよ」満面の笑みで答え彼女は続けた。
「あのね、私学校に一人で行ってるんだよね」彼女は口をとがらせながら言った。
「そうなんだ」
「え、気づかないの?」
「なにを?」
「もう知らない!ばか」拗ねて先に学校の方へ歩いて行ってしまった。
雨が傘を打つ音、車が水たまりの上を走る音を聞きながら約15分の道のりを一人で傘を差し学校へ歩いていく。
教室に着くとみんな、どの種目に入るかなどの話をしていた。
最近は学校に行くと僕、高木さん、けいと、みつきの4人で僕の席に集まり勉強や前日にあった出来事などを毎日のように話している。
今日の話題は、けいとの好きな人についてだった。
この話題は高木さんから始まった。
「けいとは、サッカー部のキャプテンだしやっぱりモテるの?」ニヤきながら聞いた。
「全然だよ。告白なんかされたかとないし」
けいとの笑顔はいつもさわやかだ。
「えー、意外だね」みつきが意外と食いついていて驚いた。
「はい、座れー」
先生が教室に入ってきたと同時にチャイムが鳴った。
「今日は前から言ってたように体育祭の種目決めを始めます。体育委員進行頼むね」
体育委員は、けいとだ。
「みんな、早く決めていこうぜ!」
種目決めは順調に決まっていった。
僕は、けいとの提案でけいと、高木さんとみつきと共に男女ミックスのリレーに出ることになった。
4人がリレーに決まると高木さんはとてもテンションが高くなっていた。
学校帰り、4人で晩御飯を食べに行った。
その帰り道、僕はみつきに呼ばれた。
たけるー!」
足を止めて後ろを向くと、みつきがいた。
「ねぇ、たけるって好きな人いるの?」彼女の顔は真剣だった。
「えっと、どうだろいるのかな…」
たけるは、奈々が好きなんじゃないの?」
僕が好きなのは…確かにこう考えると最初に思いつくのは高木さん、けどよく遊ぶからだと思う。好きなのか?いや、たぶん違う。
「多分、違うかな」
「そっか、分かった!呼び止めてごめんね」
彼女の顔からは満足感を感じ取れた。
なんだったんだろう。
僕も、家の方に足を向けた。
その途端、雨が降り出してきたので傘を開く、そして街灯の少ない坂道を1人で歩く。そこに、街灯に照らされてなにか小さい生き物見えた。あの公園に連れて行ってくれた猫だ。こっちを、見ながら行儀よくお座りをしている。
相変わらず毛並みが綺麗く、街灯に照らされ目が青く輝いて見えた。
僕はその猫を横目に通り過ぎた。
「明日はいいことあるかな」
何故かこの猫を見るといいことが起きそうな気がしていた。
最近の楽しい生活をくれた高木さんとの出会いのような。
そんなことを考えながら家へと坂道を登っていく。
「やっほーたけるくん」
後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには高木さんがいた。
「えっ、なんで」
「なんでって、同じマンションじゃん」
「確かにそうだけど先にけったんじゃんかったの?」
「公園で、ぼーっとしてたの」
彼女はとても照れながら言った。
「高木さんの顔、赤いよ」
僕は、街灯に照らされ彼女の顔を見ながら言った。
「うるさいなぁー、そろそろ奈々って呼んでくれてもよくない?」
彼女は下を見ながら言った。
「奈々」
少し恥ずかしかったけど、初めて彼女の下の名前で呼んだ。
たけるくん、顔赤いね」
奈々は、僕を見ながら笑った。
「今日は月が綺麗だね」
「そうだね」
そう言って二人で空に浮かぶ月を見上げる。
今日は、大きな満月だった。その月はいつも以上に輝き僕らを照らしている様だった。
「そろそろ帰ろっか」
奈々は僕の手を引っ張ってきた。彼女の手は少し冷たかった。
僕は女の子と手を繋ぐのは2回目だった。